眠法・軽法・笑法(1) ~契約~

田辺 信彦

マンションの管理
マンションをさがしている人が、あるマンションで浴室や石炭貯蔵地下室やその他の設備全てを調べ終わって「気に入った」といった。
「お子さんはおいでですか?」と管理人が尋ねた。
「はい、おります」
「それじゃ、このマンションはだめです」
「でもあなたはわかっていらっしゃらないのです。わたしの一番下の子はもう30歳で、結婚していて、今はテキサス州に住んでいるのです。他の2人もカリフォルニア州にいます」
「そういわれても変わりありません。子どものある人にはこのマンションを貸してはいけないと固くいわれていますから…」

借家契約手続
家主がたずねた。
「お子さまはいらっしゃいますか?」
「はい、6人です。皆、墓地です」と相手はしかつめらしい顔をして答えた。
「こんな世の中よりあちらの方がましですよ」と家主は相手を慰めていい、借家契約手続を始めた。
やがて、その時まで遊びにやられていた子どもたちが墓地から戻ってきた。しかし、契約を無効にするには、時すでに遅しであった。

― 羽深幸男・アメリカのジョーク(「世界のジョーク・警句集」所収)24頁、25頁 ―


 借家契約の条件として、<1>借主が犬・猫・ワニなどのペットを飼わないこと、<2>借主の家族に幼児・子どももしくは乱暴な男の子がいないこと、<3>借主が無職でないこと、<4>借主が外国人でないこと、<5>借主が独り暮らしの女性でないこと、<6>借主が独り暮らしの老人でないこと、<7>借主もしくはその家族がヤクザでないこと、<8>借主もしくはその家族に薬物中毒患者がいないこと、<9>借主もしくはその家族に喫煙者がいないことなどが話題になることがあります。
 家主の側からすれば、<1>は鳴き声や糞、危害などで他の室の借主など隣近所に迷惑をかけたり、貸家が汚れる、<2>は泣き声がうるさいとか、貸家が落書きで汚れるとか、男の子は乱暴で家が普通以上に痛む、<3>は家賃を確実に払えるかどうか心配、<4>は風俗習慣、言葉、法意識、行動パターン、発想の違う外国人とは意思の疎通が不十分になりがちでトラブルが生じ易いとか、突然帰国したり行方がわからなくなったときに本人もしくは身寄りの人と連絡をとるのが面倒、<5>は独り暮らしの女性は従来定職についてない人が多く、転居・夜逃げなどにより突然行方が知れなくなる可能性が高い、<6>は何かあったときすぐにわからないことがあるし、死亡したときに死体や所有物の引き取り手が現れないと困る、<7>、<8>は周りに身の危険が生じかねないし、他の室の借り手がいなくなる、<9>は天井、壁、カーテンなど煙草の煙で家が汚れるなどの理由から、そのような場合には貸したくないと考えるようです。
 しかし、最近は男性でも職業、住居の定まらない人は増えているようですし、女性でも定職についている人が多数いるわけですから、女性であることだけを理由とするのは不当な差別と言うべきでしょう。また、外国人といっても日本語、日本の風俗習慣に馴染んだ外国人もいますし、日本に長期間滞在する外国人もいるのですから、外国人というだけで差別するのは不当と言うべきでしょう。ちなみに、日本人か外国人かは国籍法によって区別されるので、ラモスや小錦関は日本人です。

 契約自由の原則から、契約の「条件」は、それが公序良俗に反しない限り、契約の当事者が自由に定めることができます。子どものいない夫婦に家を貸したいならそれを契約条項(特約)に盛り込んでおくべきです。想定されるあらゆる場合に対応できる契約書がよい契約書であると言えます。契約に早合点は禁物です。ただ、契約内容(条項)の解釈は、契約条項の趣旨を踏まえて、文言を合理的に解釈する必要があります。形式的な文言に把われると、初めの笑い話のように不合理な結果になってしまいます。

※この記事は「たなべフォーラム」第2号(平成7年9月20日発行)に掲載されたものを転載したものです。
※文中の「小錦関」は現在「コニシキ」となっています。呂比須や三都主も帰化しているので日本人です。

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